川崎フロンターレ 鬼木 達監督 川崎フロンターレ 鬼木 達監督

監督 鬼木 達

悔しさをパワーに変え次へ向かう

切り替えるようになったのは監督になってから

監督になられて丸7年経ちましたが、ご自身のなかで変化はありますか?
自分で昔の映像見たら「歳取ったな~」って思いますよ(笑)。就任1年目は監督なんて初めてだったから右も左も分からないことばかりでしたけど、今は「監督のやり方」というか、監督の仕事の意味が分かってきたところがあります。でも分かるようになったからこその難しさも感じてますけどね。
監督としての自信もどんどんつけてこられた?
自信?う~ん、自信というか「やるしかない」という気持ちかな。自信は持たなきゃいけないと常に思っていますけど。自分の考え方としては、やれる、やれないじゃなくて、目の前のことをやるしかない。それはずっと変わらないです。
4度のリーグ優勝を果たしていらっしゃいます。改めてすごいことだと思いますが、鬼木監督にとっても、就任前に想像していた以上の結果を掴んだという思いはありますか?
これは難しいところなんですけど、やっぱり自分は「全部勝ちたい」んですよ。だから、想像以上だったかと言われればそうではないです。もちろん全部が勝てるわけじゃないですからどこかで納得しなくてはいけないことも分かってます。でもチームの1番先頭でチームを動かす立場である自分としては、この7年間は悔しい思いのほうが多かったですね。
鬼木監督は敗戦した試合の後は本当に悔しそうな表情をされています。どう切り替えてらっしゃるんですか?
試合会場からのバスを降りる頃にはもう次のことを考えてますね。どれだけ悪い試合をしても次の日は来るので、そこへの準備が必要だと。そういう切り替えをするようになったのは監督になってからです。選手の時は負けた翌日に笑ってる選手がいたら腹が立ってましたから。今は、選手が切り替えてきてくれたなって思える。その根本は同じなんですよ。「次勝ちたい」から。悔しさは大事だけど、それをパワーに次に向かうことが必要だと感じるようになりました。
現役時代のお話も伺いたいのですが、高卒で鹿島アントラーズに入団されました。よく「自分は試合に出られない選手の気持ちがわかる」とおっしゃいますよね。
丸2年間全く試合に出てないですからね。3年目でようやく少し試合に絡めた感じで。
そこからも鹿島でレギュラーにはなかなかなれなかった。
やっぱり「本物の力」がなかったんですね。この世界はその「本物の力」がないと生き残っていけない、ということを鹿島で感じましたし、指導者となった今もそういう選手を育てないと選手が大成していかない、という思いがあります。
1998年に当時まだJFLだったフロンターレにレンタルで移籍加入されました。Jクラブとの違いは大きかったんじゃないですか?
環境が全然違いました。当時は南多摩に練習場があったんですけど、グラウンドもロッカールームも、なんていうか…表現が難しい(笑)。でも、試合で選手が必死なのは一緒。当時は社員選手(富士通に勤務しながらプレーをする選手)も多かったですけど、だから意識が低いかといえばそうじゃない。そこに違和感はなかったです。
現役時代の鬼木監督は『ピッチのなかではチームメイトにものすごく厳しかった』というお話をよく聞きます。厳しさをフロンターレに持ち込まれたんだな、と。
ピッチのなかでは周りに厳しく要求しましたね。市船や鹿島という勝負にこだわるところでやってきましたから、普通のことでした。戦ってほしかったんです。みんな必死で戦ってるんだけど、でもこのままじゃ勝てない、と感じるところもあって。やっぱり勝ちたかったから。
せっかくなのでプライベートのお話も少し。犬を飼われていると伺いました。
2頭いて、チワワとポメラニアンで名前はドンとクック。もともと保護犬なんですよ。ドンもクックも、最初は部屋の隅にいて動かなかったり吠えてきたりしたのに、時間が経つとどんどん表情や様子が変わったんです。僕は犬を飼うのは初めてなんですけど、こうやって信頼関係ができていくと変化していくのが驚きというか、おもしろいですね。
奥さまと一緒に犬の散歩に行かれることもあるとか。夫婦円満の秘訣も教えてもらえますか?
やっぱり感謝かな。感謝の思いを伝えることで…え?このくだり必要ですか?(笑)
プロフィール

【鬼木 達】1974年4月20日生まれ 千葉県船橋市出身 クラブ公式プロフィール
2017年にフロンターレの監督に就任し、1年目でJ1リーグ初優勝を果たす。2021年には通算2度目となる連覇を成し遂げ、Jリーグ史上最速となる就任から156試合目で監督通算100勝を達成した。勝負にこだわりつつ、試合内容でも観客を魅了するという高い理想を掲げる。

フリーアナウンサー 高木聖佳’s eye フリーアナウンサー 高木聖佳’s eye

このインタビューは、鬼木監督に「ゆっくりお話を聞かせてください!」と直訴して昨季の終わり頃に実現しました。シーズン中に監督のプライベートのお話まで聞かせて頂くなんてなかなかできないのですが、快く応じてくださった鬼木監督に感謝します。これだけ実績を上げた監督になっても、誰に対しても決して偉ぶらず自然体で接してくださる鬼木監督の素顔が伝われば嬉しいです。
インタビュー後に、鬼木監督の8年目の続投が発表されました。
天皇杯優勝後のインタビューでは「タイトルを獲り続けないと分からないことがある。とにかく獲り続けたい」と。これはJリーグの監督のなかでは鬼木監督でないと言えない言葉ですよね。新シーズンもまた必ずタイトルを手にしてほしいです!